お坊さん100人に聞く
総合学習についてのアンケート

はじめに

 平成14年度から学校教育に総合的学習の時間(総合学習)が導入され、これで週五日制の完全実施とともに、子どもたちの教育環境も大きく様変わりしつつあります。
 総合学習の導入には、二ヵ年の移行措置期間というものが設けられ、その期間を経て昨年四月からの本格導入となったわけですが、仄聞するところでは、いまだ教育の現場には大きな途惑いが見られるようです。また新聞その他のメデイアの報道をみても、この総合学習をめぐっては、さまざまな意見が社会に渦巻いているようです。

 しかし、子どもたちに学びの出発点として、気づきや関心を与え、そこから自ら考え、行動できるようにする教育が、いま求められていることは言をまたないでしょう。総合学習では、さまざまなテーマの中から子どもたち自身にテーマを選ばせ、実地に体験させて、そうした体験の中で得た気づきや関心の中から、自ら考え、行動できる子どもたちを育てようとします。その趣旨には全面的に賛同したいと思います。
 そもそも学ぶということは、気づきや関心の中から生まれるものです。そして、そうした場を子どもたちに与え、必要なサポートをするのが教育であり、また教育者の役割ではないでしょうか。気づきや関心を芽生えさせ、それを教育がうまくサポートできれば、子どもたちはグングン成長します。学力が低下するなどという心配はご無用、低下するどころか、驚異的に伸びて行くものです。
 マニュアルに従った従来型の詰め込み一辺倒の教育は、教育の名にまったく値しないものです。そうした詰め込み教育の中で行われてきた試験の結果などで、学力を問うこと自体もうやめるべきです。これからは総合教育の精神の普及をはかり、これを定着させることによって教育を刷新することこそ、必要な急務というべきです。
 ところで、こうした総合学習を今後円滑に実施して行くには社会からの支援が不可欠となりますが、その中でも、とくに体験的な学びの場をさまざまに提供しうる「寺院からのサポート」が必要であり、かつ重要なものになっていくと思われます。そこで、当サンクチュアリ保護基金では、総合学習と寺院の役割を考えるための参考にと、このほど寺院を対象にアンケート調査を実施しました。

 このアンケート調査は、足利市内と一部佐野市を含む約100の寺院を対象として、昨年5月に往復ハガキを用いて実施しました。「折り返しご回答ください」と回答をお願いしたところ、3週間ほどで約半数の寺院から回答が寄せられました。(ただし一寺院のみ無記入のまま返却されています。)
 5月24日付でまとめた調査結果は、別表の通りです。各項目の結果に簡略にコメントを付したいと思います。表と見比べながら、お読みください。


総合学習に関するアンケート調査結果

     ◇調査実施:2002年5月1日(往復ハガキ郵送)
◇調査対象:栃木県足利市 市内寺院 93寺院
            (隣接の佐野市3寺院を含む)
◇回答あり:49寺院(回答率53%)
             (ただし、1寺院は無記入)

Q1−1「総合学習」ということばをご存知ですか。
・知っている        42
・知らない          6
 
Q1−2「総合学習」の詳しい内容を知っていますか。
・知っている     15
・知らない       33
 
Q2−1学校から総合学習への協力依頼はありましたか。
・あった        9
・ない       39

Q2−2あったのはどのような内容ですか。
・話をしてほしい       6
・子どもたちの訪問      6
・寺院施設の使用       2
・先生方の研修        2
・その他 ?学校開放事業への協力
      ?古い寺院の見学・ビオトープの見学

Q2−3学校から依頼があれば、協力したいと思いますか。
・思う           27
・思わない          3
・どちらともいえない    17
 
Q2−4協力できる内容は次のどれですか。(いくつでも)
・講師として         13
・寺院の文化財の貸し出し   3
・境内での活動が可能     27
・堂内空間のみ活動可能    4
・寺院施設の大半の使用可能  16
・その他 ?地域社会と連携
      ?境内が広くないのでクラス単位での来寺が限度かも
      ?保育園施設使用可能、園児との交流など
      ?坐禅指導
      ?内容によっては協力できる
?境内・堂内共に小規模寺院はどうしたらいいのでしょう

Q3これまで貴寺院を会場に行われたことのあるものに○をつけてください。
(子ども対象のものです)
・写生会      17  ・ネイチャーゲーム   1
・自然観察会     4  ・音楽会        2
・映画鑑賞会     5  ・紙芝居        3
・坐禅会      17  ・人形劇        3
・その他   ?保育園で中学生・高校生の体験学習、職場見学実習
        ?花まつり
        ?花まつり・千灯供養の参詣者の大半は子どもです
        ?花祭りと入学祝い
        ?寺としてない。幼児教育施設としては多々あります
        ?ハイク
?俳句まつり、絵馬コンクール
        ?境内そうじ(育成会)
        ?文化財見学
        ?学童保育

Q4貴寺院で定期的に行われている子ども対象の行事がありましたら、お書きください。
?夏休み親子ふれあい参禅会
?夏休み座禅会・ラジオ体操
       ?高校硬式野球部坐禅会
       ?子ども禅の集い
       ?育成会主催坐禅会
       ?子供映画会
       ?俳句まつり/絵馬コンクール(新入学1年生のみ)
       ?ピンポン大会・英会話教室その他
       ?花まつり・夏休み座禅会
       ?園児と保護者対象の仏教行事
       ?過去に座禅会あり
       ?夏休み子どものつどい(人形劇など)
       ?学童保育
       ?柿取り
       ?こども館座禅会(今のところ休止中)
       ?新年交通安全祈願(自治会育成会)


Q1の1

まず、「総合学習」という言葉を知っていますかという質問については、大半のご寺院が「知っている」と答えています。「知らない」と答えた寺院はほんのわずかです。

Q1の2

次に、総合学習の「詳しい内容」はどうかと尋ねますと、こんどは多くの寺院が「知らない」と答えています。つまり言葉としては知っているが、その内容については大半の寺院が詳しくは知らないという結果が出ました。

Q2の1

次に、学校からの「協力依頼」について、すでに「あった」と答えている寺院が回答寺院の2割ありました。これらの寺院は、あとの設問の3や4の回答から判るのですが、概して写生会や映画会など、子ども対象のさまざまな催し物をこれまでにやったことがあるか、もしくは現在も定期的にやっている寺院が大半です。つまり、そうした実績があって、学校や地域とのつながりを持っている寺院には、総合学習についてもすでに依頼が来ている、ということになるようです。
 ちなみに、長林寺サンクチュアリには、まだ学校からは何も言ってきていません。少しさびしい気がしますが、なぜ協力要請がないのか、基金のメンバーと話し合ったところ、学校の近くの病院や農家など、つまりもっと学校から近い手近なところに場があるのではないか、とりあえずはそうした所で総合学習や体験学習ができているのではないか、という見方がありました。そうなのでしょうか、これは先生方に聞いてみなければわかりませんが、事実その通りであるなら、大変結構なことです。そのうち、サンクチュアリの方にも足を伸ばしてくれるようになればと願っています。

Q2の2

次に、依頼があったのはどういう内容ですかと尋ねますと、「話をしてほしい」というのと、「子どもたちの訪問」が大半を占めています。「寺院施設の使用」が2件しかありませんが、これは後で触れるように、寺院側の思いというか、寺院側で可能と考えている協力内容と、ややチグハグな結果になっています。

Q2の3

ところで、学校からの協力依頼は「ない」と答えている寺院も、その半数は、もし依頼があれば協力したいと答えています。「どちらともいえない」と答えている寺院も、きっと学校サイドから説明と依頼があれば、応じてくれる寺院が少なくないでしょう。ですから、そうした寺院も「協力組」に加えるならば、実に9割の寺院が何らかの協力をしてくれる可能性があります。
 「思わない」と答えている寺院は、たったの3寺院しかありません。子どもたちのために、寺院を何らかの形で開放したいと多くの寺院が前向きに考えていることがわかります。
 このことは、もしも学校が求めさえすれば、寺院環境は総合学習のための場として大いに活用できるということを示していると思われます。

Q2の4

では、どういう協力ができるか、その内容について質問したところ、最も多いのは「境内での活動が可能」というものです。また「寺院施設の大半の使用可能」がこれに続き、境内や施設の使用といった面での協力ができるというのが多いことがわかります。「堂内空間のみ活動可能」という回答はごくわずかです。これはいわば、どうぞご自由に境内や施設をお使い下さいという、メッセージと受け取ってよいでしょう。「講師として」協力できると答えている寺院も少なくありません。
 その他、「地域社会と連携」とか、保育園を経営している寺院はその施設の使用や園児との交流を掲げ、坐禅指導といった具体的な内容への言及も見られます。
 境内の広さも、子どもたちの受け入れに当たって考える必要がありますが、ある寺院はクラス単位の受け入れならと言っています。境内も堂内も小さい場合はどうしたらといった声もありますが、どんな小さな、あるいは境内地の狭い寺院でも、少人数での学習なら受け入れは可能ではないでしょうか。どこの寺院にも数百年の歴史があり、たとえ外へ持ち出すのは無理としても、さまざまな歴史的資料や文化的な伝統があるものです。写真やコピーでそうしたものを見せてもらったり、またお坊さんたちの話を聞くこともできます。

Q3

「これまで貴寺院を会場に行われたことのあるものに○をつけてください」という項目に対しては、坐禅会と写生会が断然多くなっております。坐禅会が多いのは、足利市にはとくに禅宗系統の寺院が多いためと思われます。アンケート対象の寺院のうち、実に三分の一が禅宗系の寺院です。また写生会が多いのも、市街地周辺の山間部の寺院が、これも禅宗寺院が多いのですが、写生会に適しているということもありましょうか。
 あらかじめ掲げておいた行事以外に、その他でいろいろなものが掲げられていますが、花祭りという4〜5月の行事は、とくに昔から子どもたちが主役で行われて来ており、ここでも3寺院が掲げております。俳句や絵馬コンクールといった催し物もあります。ちなみに、幼稚園や保育園を経営している寺院は、回答寺院の中にたぶん5寺院ありますが、そうした幼児教育施設ならではの行事も行われているようです。

Q4

最後に、定期的に行われている子ども対象の行事はと聞きますと、ここでも坐禅会が多いのですが、その他にもいろいろバラエテイに富んだ定期的な催し物が行われていることがわかります。総合学習には不向きなものもあるかも知れませんが、多様な文化を学ぶという視点があれば、学校の授業で宗教文化に触れることも意義があるのではないでしょうか。

 こうして見てくると、今回のアンケート調査の対象寺院では、学校側からのアプローチさえあれば、できる協力をしたいという、寺院側の積極姿勢がうかがえるといってよいと思われます。
 総合学習が本格導入されたにもかかわらず、最初に触れたように、教育の現場にはいまだ途惑いも見られ、また社会的にもさまざまな意見があります。こうした現状が、いまだ寺院への働きかけの少ないことにも現われているのか、あるいは寺院という宗教施設へのアプローチに、何かためらわせるものがあるのか、わかりませんが、少なくとも寺院が持っている自然環境や歴史的・文化的環境は、子どもたちの生きた体験学習の場にふさわしい一つの場として、今後より積極的な活用がはかられてよいと思われます。
 今回のアンケートは、足利市と一部佐野市の寺院を対象とした調査に過ぎず、ここから多くのことを結論づけることはできませんが、しかし学校と寺院とが連携して、今後の総合学習の推進に果たしうる役割はけっして小さくないように思われます。今後学校と寺院との間の相互理解を深め、子どもたちの教育環境の改善と向上に、寺院も一定の役割を果たすことができるようになるよう、心から期待しています。
 なお、今回のアンケート調査にはサンクチュアリ保護基金の幹事の一人、市内高校教員の金子武司さんの協力(とくに質問項目作成について)を得ました。またこの調査結果の概要は、5月24〜26日に開かれた日本環境教育学会第十三回大会(仙台・宮城教育大学)で代表の矢島が発表しました。
                                              (代表 矢島道彦記)