第4話 天狗の投げ岩


 ここで天狗と申しますのは、もちろん寺の鎮守である道了大権現(道了さま)のことでございます。
 道了さまの神通力は、まことに偉大なものでございまして、昔から不可思議な出来事がございますと、なんでも道了さまのお力によるものと、この寺では信じられてきたのでございます。
 本堂の前に、山石が一つぽつんと据え置かれております。ただいまは辛夷(こぶし)の木が成長いたしまして、山石を覆ってしまっておりますが、これがかの天狗の投げ岩でございまして、道了さまのお力をしめす動かぬ証拠の品なのでございます。
 え、なんの変哲もない山石ではないか? いえいえ、みなさま、よーく眼を凝らしてご覧くださいませ。岩の表面に、なんとなく指のあとのような窪みが見えるでございましょう。見えませぬか? みえなければ、みえないでけっこうでございます。くっきりはっきりみえるようでは、かえって真実味に欠けるというものでございます。風雪に耐え、幾星霜を経た岩でございます。それとなく、なんとなく、あとが残っている。そこになんともいえぬ奥ゆかしさが漂っているではございませんか。