第6話 鏡岩と岩富士


 小田原の大雄山最乗寺が箱根に近く、富士をのぞむということでありましょうか、道了大権現(道了尊・道了さま)をお祀りしておりますお堂の後ろの岩は、遠くからよく見ますと、これが富士山の形をしております。第7話でご紹介いたします猿ヶ池の水が権現水であるという古伝を思いますれば、やはり中興さまがこの岩を後ろにして道了尊をお祀りしたことも、むべなるかなと思われるのでございます。
 そして、道了堂の向かって右手になりますが、自然石を刻んで作った石段を登りつめて、右を向きますと、そこに自然の生き石を縦に割って磨いたような、スベスベした岩がございます。これがかの鏡岩(
かがみいわ)でございます。
 現在はだいぶ苔むし、さびて、とても鏡とは申せませぬが、むかしはピカピカだったそうでございまして、お詣りをいたします前には、かならずこの岩の前に立って、服装を正したのだそうでございます。心正しくない者の投影(かげ)はにぶく、心正しい人の投影は、はっきりと美しく映ったといわれております。
 天狗どのとそのお仲間たちも、自分たちの姿を映しては喜び合い、たわむれておったとのことでございますが、きっと真っ赤な顔や巨大な鼻を鏡岩に映して、自慢し合っていたのでございましょう。なんとも微笑ましい光景でございませんか。